Wharton MBA (Class of 2009) 有志による「刺激」を共有する場
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慧眼(おにゃお)

今回の金融危機を、正確に予想していた人がいた。

債券運用ファンドPIMCO社のビル・グロス氏。
預かり資産約90兆円の最高運用責任者である。

ロサンゼルスから南、車で1時間ほどのリゾート地、ニューポートビーチ。
7月初、私はPIMCO本社のトレーディングフロアにいた。

グローバルデスクに配属になって、2週目に入っていた。
ブルームバーグ端末にブローカーからのメッセージが点滅した。
『リーマンブラザーズと君の会社に関して変な噂が流れている』
普段は墓場のように静かなフロアが、ざわつき始めていた。
リーマン社の株価が見る見る内に下がっている。

電話に出ていた、レポ取引、そしてモーゲージ運用担当者が、
フロアの中心にある、ビル・グロス氏のデスクに駆けつけた。
絶対的な沈黙と、軍隊のような規律を好むグロス氏からすると、
普段はありえない光景だった。
『ピムコがリーマンとの取引を差し控えているとの噂が立っています』
低く囁く声が聞こえる。

リーマン社の株価は、75%も下落していた。

ビル・グロス氏の対応は早かった。
1時間後、自社内にあるテレビの中継室から、
報道各社のテレビ・インタビューに応え、噂を否定した。
フロアのポートフォリオ・マネージャーは息を呑んで、
テレビ画面に映し出される中継の様子を見守っていた。

グロス氏の発言を受けて、リーマン社の株価は、今度は急激に上昇していく。
伝統的な投資銀行の命運が、一人の投資家の一言に左右されている状況は、
ある意味、滑稽で、しかし、深刻だった。
株価の動きは、臨終を迎えようとしている患者の心電図と重なって見えた。

何かが、おかしい。
リーマンブラザーズの終章を、ビル・グロス氏はその時点で予想していたはずだ。

8月20日。
私はインターンの最後に、グロス氏の前でプレゼンテーションをすることになった。
テーマは『米国のインフレ予測について』。
インフレ動向は、債券価格を決定する、非常に重要なファクターであるが、
債券王と呼ばれるビル・グロス氏が、
素人学生のプレゼンテーションに耳を傾けてくれるのか、不安だった。

「金融市場は既に米国経済の急激な減速を示唆しています。
消費者物価指数は、コア部分での動きは鈍いものの、
総合指数ベースでは今後、下落が予想されます」

説明をしている目の前で、グロス氏は一枚のグラフを食い入るように見ていた。
1974年からの日本の地価と、1990年からの米国の地価を比べたグラフだった。

Q&Aが始まると、ビル・グロス氏が真っ先に質問を投げかけた。
「米国でもデフレの可能性があると思いますか?」

正直、驚いた。
原油価格は少し落ち着いていたとはいえ、
川上の価格上昇の影響が、川下へと転嫁されるとの見方が一般的だった。
市場の大勢はまだ、連邦準備委員会による年内の政策金利引き上げを予想していた。

一息ついて、答えた。

「金融危機が収束せず、金融当局の対応が遅れた場合、
日本の轍を踏んで、米国もデフレになる可能性がなしとは言えないでしょう。
米国の場合は、日本と違って、
自宅を担保としたリバース・モーゲージが広く行われているため、
家計にもレバレッジがかかっているため、
地価下落の影響は、日本の場合よりも悪質です。
流動性の罠に陥ると、さらに問題は厄介です。
日本オフィスのクレジット・アナリスト、小関広洋氏が、
金融危機の対応について、日本の経験から何を学ぶか、
興味深いレポートを書かれていますので、ご参考ください」

グロス氏は、口元を引き締めて、こっくりと頷いた。

この日は、まだ嵐の前の静けさだったことは、
後の出来事が証明することになる。

ビル・グロス氏は、緑がかったハシバミ色の眼をしている。
遠くを見て考え込む彼の眼差しは、不思議に澄んでいる。
彼の眼には、どんな未来が、今日は映っているのだろう。
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by whartonjapan09 | 2008-10-17 18:22 | おにゃお
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